OHTAKI'S MODERN CARTOON

モハメド・モハメド・モハメド(完結編)の巻

あたたかくなりました。
お花やさんのチューリップの時期もとっくに終わりです。

ほんとうに、あたたかくなりました。
これくらいあたたかくなると、例年だったら、モハメドたちがまな板や花瓶のばらによじのぼりはじめます。
それをみて、わたしは、春なんだなあ、またことしも冬までよろしくね、なんて思う。

でも、それは、いままでのはるのはなしです。

ことしから、わたしのくらしにモハメドたちはいません。
もちろん、引っ越しにあたって、モハメドたちが住んでいたアロハ醤油のびんは大事にもって来ました。でもそれは、じつは、空家なのです。

夏のことでした。とつぜんモハメドたちはアロハ醤油のびんを捨てたのです。

妙にモハメドたちが増えていました。どうやって増えてるのか知りませんが、確実に増えている。謎に思っていたら、三宅で大きな地震がおきた日、モハメドたちがいっせいにアロハ醤油の瓶から出てくるではありませんか。

数えたら15、6匹もいます。大柄なのが5匹くらい。こんなに大家族であんなちいさなアロハ醤油の蓋に住んでたんでしょうか。それは香港よりも住宅事情が悪いぜ。

あまりのことにたまげているわたしを後目に、彼らはそのまま壁をつたって、なんと風呂場に向かったのであります。

息をのみました。その頃、モハメドを台所だけではなくその壁をつたった先にある、洗面台と風呂場のあたりでたまに見かけるようになっていて、「おやおやモハメドさん、遠征ですか(ぶらり途中下車調でヒトツ)」なんて思っていたのですが、まさか、まさか。

モハメドたちがアロハ醤油の蓋で暮らしているのを発見したときも、わたしは流しのふちに手をかけて、息をつめ、モハメドを目で追っていました。あれから何年たったでしょうか。わたしは、また同じように彼らを見つめています。息がくるしい。どきどきします。彼らはどこへいこうとしているのだろう。

モハメドたちの先頭は、目的の場所を知っているように自信満々の歩みで、蝶番から風呂場のドアのくもりガラスに渡りました。おいおい、なにするだよ。

そして、ドアのガラスのパッキンをちびちび歩いたかと思うと、するりと。

な、なにーーーー?

パッキンの隙間から消えました。パッキンだぜ、ええおい。
唖然としていたら次から次へとみんなそのちいさな隙間から消えていきまして。
誰も居なくなりました。
風呂場に残っているのはわたしだけです。ポツン感、ひしひし。
きみらは風呂のドアのパッキンで暮らすというのか?
 

それ以来、アロハ醤油の瓶をどんなに長い間みつめていても、もう、二度とそこからモハメドが頭を覗かせることはありませんでした。入る素振りも見せません。「あれはもう捨てた家だから」と言わんばかりです。

新しいことが始まったんだなあ。

そしてわたしも暮れに引っ越しを決意して、長年住んだ目黒の部屋を後にしたのです。冬なのでモハメドたちはもうすっかり外に出なくなっていてお別れは言えませんでした。

あれから5カ月。新しい住人があの気持ちのいい部屋に住んでいると思います。モハメドは受け入れて貰えているでしょうか。
「なんだこの蟻!」とか叫ばれて殺虫剤をシュー!なんてね。
まあそれもモハメドの運命というものでしょう。新しいヨコハマの家のテラスで鴬の声を聞きながら、そんなことを考える春です。

 

tulipa@mamioh.com *MAMI OHTAKI*

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