たとえば散歩をしていて(散歩をしていてという状況が多いのはわたしの生活は散歩と仕事でなりたっているからです)縁もゆかりもないただの町の住宅街なんかを歩きながらフト思います。
いまなんらかの事情でここで行き倒れて死んでしまったら。
うーむ。
わたしは前科もないし、普段身分を証明するものも持っていないので、身元がなかなか判別しにくいと思うのですよ。おまけにここはわたしの日常の行動範囲ではない。町の誰に聞いたって行き倒れたわたしのことなんかわかんない。まあわたしの暮らす町内でもわかんないかもしれないですが。
まあ警察のかたが所持品をみたりしますわな。
よしよし、財布の中にはわたしの大事な電話帳が入っています。ただの名刺大の紙に10箇所弱の電話番号が書いて有るだけですが、これがわたしの日常的交遊関係各位のすべてです。もっとちゃんとした電話帳もパソコンの中にあるにはありますがまあ普段はこの10箇所さえ持ち歩いていれば問題ないのです。
うーん。でもなあ。
いちばん頼りの1は留守番電話がきらいなのでその機能を使っていません。
2は留守番電話の無骨さを嫌ってか、いまだに黒電話です。
3は昼間たいてい寝ていて電話にでません。ややひきこもり。
4は海外出張が多くて不在がち。
56は編集者だからたぶん留守番メッセージになります。あのひとたちはいそがしいからなあ。
789は事務所や編集部になってしまいますからきっと話がわかるひとを見つけるのは大変です。
うっひゃあ。こりゃいけません。
だれがいったいはじめにわたしを確認しにきてくれるでしょうか。いつになったらわたしの身元はわれるのでしょうか。
そしてその間わたしは連絡がとれないことで編集部や誰それに迷惑をかけているのではないでしょうか。すでにナキガラとはいえやきもきします。
でもきっと「まーたおおたきさん糸の切れた凧みたいになっちゃってもー」とかそういう気持ちがきっとみんなの中にあるので、むかつかれこそすれ、あまり心配はされていないのです。
やっと誰かが警察からの連絡をキャッチしてくれて身元が割れる。これこれこういう素性の人間でどこに住んでるかが判明する。
やっとわたしの死の成りゆきが伝わる。
そのときです。みんなはまずこう思うのではないでしょうか。
「なんでそんなとこに?」
異国や観光地ならまだしも、なんで自宅から半端な距離感のなんの関係も見いだせない場所で行き倒れてんの?
散歩が趣味だからだよ!
声を大にしたくてもナキガラですから。
散歩先で倒れないようにしなくちゃなあ。
そんなどうでもいい心配がわたしの毎日にはいっぱい埋まっています。
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