OHTAKI'S MODERN CARTOON

ハラカラの巻

電車の中でドアのところに立ってぼさっとしておりまして。
フト、ドアのガラスを見ると、わたしの背中方面に坐っているサラリーマンが映りこんでいるのがわかりました。
その若いサラリーマン、妙に嬉しそうだ。
というか大層嬉しそうににこにこしながらわたしの後ろ姿を見つめているのでございます。
ど、ど、どうしたことだ。
彼の視線をよくよくたどると、おや、どうやらわたしの左手を見ている。

あっ!そうかそうかそうか!

ドラクエが発売されて1カ月。わたしもやっとDISK2です。
その日わたしは、長いことコントローラーの十字キーを押しすぎて左手のひらと一の腕がずっきんずっきんしていたんですよ。
お恥ずかしい。でもいいの。だってドラクエなんだから。
それででっかい湿布を手のひらの親指の付け根と腕にべたべた貼って、そのまま電車に乗っていたのでございます。

彼はその湿布の位置から、それがコントローラーの十字キーの押しすぎによるものであることを見抜いたに違い有りません。なぜなら、たぶん、彼もそこが痛いのです。
そう、彼もきっとドラクエをやっている!

たしかに他にもゲームはあれこれありますが、いまドラクエ以外に湿布までしてやるべきゲームがはたしてあるのか!
いや、あるかもしんないですがね。
けれどもあのサラリーマンのあの嬉しそうな視線は「なっ、やっぱドラクエだよなっ!」という喜びにほかならないと思ったんですよ。これはね、ドラクエファンにしかわからない。

わたしは賭に出ました。
ナニゲに右手でガラスを叩いてみたのであります。
「こんここんこんこんこんこんこーんこんここーんこここここんこん」
おわかりですかみなさん。そう、それはあのドラクエのテーマ。ドラクエを愛するものならば、これを聞いただけで胸になにかがこみあげるのを禁じ得ない、あのすぎやまこういち作曲の名テーマ。ああ、これを書いているだけでももうわたしは胸がどきどきいたしますよ。

はたしてそのサラリーマン、顔がぱああっと明るくなりまして、もうみもだえせんばかりの様子。鞄の上の両手が思い出を懐かしむようになにかを握ったかたちになっています。おお、それはあのプレステのコントローラーにちがいありません。あの両手の距離、親指の位置、グリップのあの丸み、完璧に彼は架空のコントローラーを握っていたのであります。きっと旅の続きを夢見ているのでしょう。
 

おお、友よ。
レベルいくつになった?こっちはバトルマスターの次にひつじかいになって、やっと「どとうのひつじ」を覚えたよ。あの海底の魚のばけものは強かったね。何回死んだ?今回は3Dなんでぐるぐる視界が回って便利だけど壁の後ろの隠し通路を見つける喜びが減ってしまったね。まあ便利になるとなにかを失うのはものの道理というものかもね。そうそう鏡はのぞいてみたかな?フリーズはしてない?パルプンテってどうなってるのかな?

心で彼に語りかけます。話はつきません。
彼は架空のコントローラーを握ったままにこにこしています。

わたしと彼の熱い思いを乗せて、湿布臭い半蔵門線は走り続けたのであります。

 

tulipa@mamioh.com *MAMI OHTAKI*

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