OHTAKI'S MODERN CARTOON

佐世保市ハウステンボス町7丁目の巻

イラストルポというのを昔はたまに引き受けてましたんですが、なんちゅうか、もう体力気力が衰えてるんで最近はずっと断っておったんです。
ああいうのは若い人間がやったほうがいいと30を越えて久しいわたしは思うわけですね。

とかいいながら、久々に引き受けちゃったんだよな。お調子者だから。
某誌編集長のカマタさんは、つきあいが長いのでわたしの面白がりツボをよーく知ってて、こう言うんですよ。
「ふふふふふ、おおたきさん、ハウステンボスってどう思う?」
くっそう、行ったことねえよ。思いがけない場所、これがポイント。わくわくしちゃったんだよな。

しかしですね、わたくしは本当に、ホンットーに、引き受けてよかった。
お調子者でよかった。

だいたいハウステンボスっていう場所を誤解してましたよ。誤解も誤解、大誤解だな。もっとハリボテのせこいとこだと思ってました。申し訳ない。
全然そういうんじゃない。もっとなんというか、あきれるほど普通に大真面目な、そういうチャーミングな場所なんですよ。
 

長崎市を取材してからJRでハウステンボスに移動したんですが、切符に「長崎-ハウステンボス」と書いて有りましてね。ハウステンボス駅?
そのようです。海沿いの単線ののどかな列車の旅を1時間半ほど、本当にハウステンボス駅にわれらは降り立ったのであります。

そこで、我が目を疑うということを経験しましたよ。

そういうことってなかなかないでしょう。我が目を疑うなんてことはね。
「ほへー」とか「なんじゃこりゃー」とか叫んだと思います。
なんと駅から真っ直ぐにバーンと立派な橋が延びていて、その先にとんでもなく大きい西洋風建造物が見えるんですよ。大きな建物なんか昨今珍しくもないですが、ああいう静かな入り江の風景に一軒だけっていうのはただごとじゃない迫力がある。それがまたヨーロッパの匂いをさせているから2倍たまげます。
これはハウステンボス入口の「ジェイアール全日空ホテル」で、アムステルダム駅の原寸レプリカとかいう話です。
なんというかねえ「ココロの準備ができてなかったのに、いやん、バカ」とでも言いますか。

しかもそこはなんとまだハウステンボス内ではないのです。おどろくのはまだまだこれからなのでした。

入国いたします。入国なんですぜ、入国。これがなんか笑えない。いかにも入国なんだもんな。
風車が、連なってぎーこぎーこと回っているのですよ。なにごとなんだよ、もう。小さな船で本日泊まるホテルヨーロッパまでしずしずと運河を進むにあたってはなんといいますかなあ。あっけにとられる、というか、何がわたしの身に起きているのかと思いましたもの。船から見えるヨーロッパな街並みや立派な塔に頭がくらくらします。白鳥エレガントに泳いでるしよー、もー。

なんといいますか、すべての驚きの根元に、説得力があるわけですよ。
「大真面目」なものが伝わってくる。
確かに歴史はない新しい場所だけど、普通に時間がたてば当たり前に歴史になる。そして時間がたったこの場所を待つ気になれるんですよ。

ハウステンボスという町が完全になりたっておるんです。
住所だって正式に「長崎県佐世保市ハウステンボス町」なんですぜ。そもそもここは都市計画のもとに作られた街で、地下には巨大なリサイクルのシステムがあって、ゴミや生活排水もすべて自己処理しているんだそうですよ。

この完結感。新しい出島なのかもしれません。
 

わたくしは、またしても翌日早起きをして、お借りした専用自転車「大滝14号」に乗って広大な町内をぐるぐる隅々までサイクリングして回ったのですが、これがまたじつに楽しかった。
朝のまぶしい光の中、ホテルの裏で太極拳をなさっている方がいるかと思うと、昨日取材したオランダ料理のお店のかたがエプロン姿で窓を磨いていたり、町内で働いている人たちが口々に朝の挨拶を交わしながら、当たり前のように通勤スタイルで歩き回っている。わたしに「おはようございます」と言ってくれる人もいるし、気にしない人もいる。当たり前に過ごす人たちの中に居る自分。
当たり前の空気。それがものすごく愉快な気分なんですよ。

わたしはこういうの、すごく好きなの。無関係な場所の日常の心地よさ。
当たり前のハウステンボス町にわたしは宿泊して朝のサイクリングを楽しんでいる。ホテルに帰ったらおいしい朝食が待ってる。卵はオムレツにしてもらおうっと、うひゃひゃひゃひゃ。
 

わたしの感激が伝わってますかなあ。

わたしは至極シアワセでした。取材で大騒動でしたけど、リラックスして数日をすごしましたよ。
遊びにいく場所というんじゃなくて、そうやってちょっとトリップしに行く場所のような気がしますよ。日常に疲れている人はハウステンボスに行ってボーと2、3日過ごされてはいかがでしょうか。気が向いたらアトラクションとかひやかしながら散歩して「はて自分はいったいどこに居るのか」なんて途方にくれる。え、どうですかい。
わたしはハウステンボスを愛するな。
 冬はたまに雪も積もるそうです。冬に行ってみたい。冷え切った石畳の上をコートを着て散歩しながら「はてわたしはいったいどこに居るのだ」と途方にくれたいです。
 

tulipa@mamioh.com *MAMI OHTAKI*

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