老猫の体調が
上向いてきたので、かねてより約束の彼
の地へ出かけることになりにけり。 彼の地とは。アキバ。ジャジャーン。正確にはメイド喫茶だい。どうだい、いいかんじに遅いだろう。えへん! 担当して頂いている某編集部のホシナさんがどうもそのへんがお強いらしく(メイドじゃなくてアキバが)同行してくださるというので、ありがたく行ってみま した。 いやしかしすごいね。アキバ。ざっと見渡した視界に入る人類の95パーセントが男じゃにゃーの。ヤング、おっさん、有色人種、白人、ばらつきあれど、メイ ルメイルメイル、ですわ。ひょっとしたらあそこを歩いている犬も雄かもな! そしてメイド喫茶。並びました。ところがなんだか妙にスカスカしている。空気が。早い話が単にウエイトレスさんが制服としてメイドの格好 をしているというだけの話で、お約束として「お帰りなさいませお嬢様(女性客はこう呼ばれる)」とは言ってくれるんだけども、それも単に「いらっしゃ いませ」の別の言い方にすぎないというか。居てもさほど楽しくはないしなんたって当のメイドがなんか煤けていて華がない。なんだか怒りすらこみ上げます。 早々に撤収。 気の済まない我々は次にメイド喫茶の老舗といわれる店へ。当たり前のように並びます。おう、並ばいでか。ところが席を案内するために駆け寄ってきたメイド さんを見て目眩がしました。彼女は足の裏を一気に接地させるような小走り、擬音をつけると「ぺたぺ たぺたぺたっ」でしょうかしら、そんなかんじでアニメの実写版のように近づいてきたのです。キターー!一気に高まるテンション。見回すと、おやおや、女の 子がかわいいぞ。顔 立ちが、というより、「わたしはかわいいメイドさん」とい う意識に満ちている。それは例えばエプロンの蝶結びがものすごくきれいに広げてあったり、いかにもな髪型だったり(注・耳の横にべろーんと髪を 残して残りはアップ)、スカートの裾から覗くペチコートが真っ白なコットンのカットワークだったり。ああ、まぶしい。女の子って、ほんとうに素晴らしい生 き物だったんだな、そんなことを思います。 そして彼女たちのその熱意は店内に居る「ご主人様」や「お嬢様」たちの心まで高揚させる。そう、店内の客、みんな微妙に顔が笑っている。わた しも実は顔が 笑っているのを感じていました。正面におられるホシナさんも全身幸福感に満ちあふれていて見るのも申し訳ないくらい。平日の昼間っから、こんなにたくさん の人たちが腑抜け状態。日本万歳。 ちょうどひとりのメイドさんが誕生日だそうで(眉唾ですが)出かけていくご主人様が声をかけるのが聞こえました。「誕生日なんだって?」メイドさん、顎に グーをあてちょっとうつむいて、はにかみながら言ったのです。 「はい、ひとつおとなになっちゃいました」 わ、わ、わたしはね、脳髄に落雷したかと思いました。すばらしいじゃありませんか。ぬかりのないこの世界観。 そう、ここは「幻想の女の子ワールド」なのです。わかりやすい女の子らしさ、そんなセコイ魔法もこれだけちゃんとしてあればディズニーランドと変わりませ ん。(個人的にはディズニーのお手軽ファンタジーが嫌いなのでこっちのほうがいい。) はじめのお店でこみ上げた怒りは、ファンタジーをなめんなよ、という怒りなのかもしれません。笛ふけど踊らず、という言葉がありますが、だれかに踊って貰 おうと思ったら、いい笛を吹かねばなりませんよ。だれがあんなへっぽこな笛で踊りますか。まず音階を覚えてから来やがれ。安いイメクラ、そんな言葉も脳裏 をよぎります。 ファンタジーとは同意と協力の上に成り立つものなのだと思います。 よく見りゃ喫茶店の跡に居抜きで入ったような安普請。そこにギュウギュウに安いテーブルセットを並べて、我々の席なんかトイレの真横(マジで1メートルも 離れてない)です。 それでも、同意と協力をもって、われわれはこの空間にピンクの波動を満たすことができる。 「ファンタジーとは"愛"ッスね!ホシナさん!」 お店を出る時に「いってらっしゃいませ」と言ってもらいたさにグズグズしたり大人げないお嬢様なのでした。 |