OHTAKI'S MODERN CARTOON

中華街の甘栗王の巻

わたしの好物はいちじくと甘栗とカヌレです。
甘栗を食べていると、必ずイベリコ豚(どんぐりだけ食べて育った高級豚)のことを思い出すのですが、こればかりは止められません。割っては食い、割っては食い、1000円分くらいはあっというまです。ああ、イベリコ豚。

中華街の近くに住んでいるので常に新鮮な甘栗を買えるのがまたうれしい。中華街にいらしたことがあるかたはご存じでしょうが甘栗天国です。日本語の上手なおにいさんたちが「オマケするよ〜」と言いながら熱々のを剥いて手のひらに乗せてくれるヨロコビ。

数ある甘栗屋のなかでも、おいしくて、おまけも多めなのが某店です。たいていそこで買っていたのですが、あるとき、そのお店のすらりとしたおにいさんが、「お姉さんはいつも買ってくれるから」と言ってわざわざ熱々のに詰めなおしてくれたうえ、ただでさえ多めのおまけよりもさらにたっぷりと入れてにこにこと渡してくれたではありませんか!

我驚愕。我歓喜。でも我赤面。
それからはもうずっとそこでばかり買っていました。ときどき「連休は忙しかった?」「いやそうでもなかったですよー」なんて他愛もない会話なんかして、非常に嬉しい甘栗ライフを送っていたのです。

ところが半年くらい前でしょうか、フト気付くと何時行ってもおにいさんが居ない。お休みなのかな?でも居ない。辞めちゃったみたいでした。しょぼん。あとに入ったお姉さんもいいひとだったので、お姉さんから買い続けていましたが、そのお姉さんも、また居なくなってしまった。しょぼん。

なんだかガックリしたわたしは、この数カ月、ふたたび甘栗ボヘミアンとなって、あちこちの店で適当に買っておったのです。
先日のこと。いつものようにイベリコ豚に思いを馳せつつ噛みしめていた甘栗が実に美味しくて、しかも袋の中に傷んだものがひとつもないのに気がつきました。これはすごいことです。たいてい1個や2個、傷み栗が入っているものなのです。

はじめて買ってみた、露天に 新しく出来た小さなお店の甘栗でした。
よし!次からはあそこで買うことに決めたぜ!
数日後、そのお店の可愛いお姉さんに「おととい買ったらすごくおいしくて、傷んでるのが1個も入ってなかったからまた来たの」なんて話をしていると後ろの上のほうから「おひさしぶりです」という声が。

振り返るとすらりと背の高い男性。はて?

あのときのわたしのオドロキをどうお伝えしたもんですかなあ。
あの、いつもおまけをしてくれたおにいさんだったのです。見慣れないユニフォームを着て、髪も伸びて、さっそうとしていたのでわかりませんでした。おにいさん、満面の笑みで言いました。
「ここ、ぼくのお店です」

おにいさんは独立して自分の甘栗屋さんを始めたのです。
すーばーらーしー!なんだか本当に嬉しくておめでとうを何回も言ったのでした。
おにいさんには頑張って中華街の甘栗王になっていただきたい。わたしはひそかにそう願っています。わたしはあれからずっとおにいさんから甘栗を買い続けています。甘栗王になってもらうためにはイベリコ豚のことなど考えてはいられないのであります。



tulipa@mamioh.com *MAMI OHTAKI*

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