さてわたくしも無事に手術が終わって経緯も順調、起きあがれるようになったときはもうシミジミと嬉しかったです。寝たきりだと背中がいてーの。わたしは眠るのもあんま好きじゃないし、立ち上がったときはもうほんとにキリンの誕生みたいでしたが、じつにせいせいしたのを覚えています。
しかし動きはじめると腹の傷が猛烈に痛い。皮膚の傷が痛いというより、中の傷が痛いという印象です。おおう。もちろん横になってるときだって痛かったわけですが、新しい痛みよこんにちわ、ってかんじで。
がまんできないわけじゃないけど、アラけっこう痛いわね、っていうか。
一歩一歩どころか一挙手一動足がズンと来る。おほほほほほ。わたし、あんまりたまげたんでつい笑いましてこれがまた痛い。
すごいすごい。
痛みがすごいんじゃなくて、なんかものすごいことが自分の身に起きてるなってかんじでした。腹開けてるんですからアタリマエっちゃアタリマエなんですが、ちょっと感心。こんどはその痛みが面白くて、ちょっと動いては発生する痛みの度合いを確認するのがこれまた大興奮なのであります。
だいそれたことをしちゃったなあ、と思いました。
うっかりくしゃみしたときなんざ、目がくらみました。
おのずとそれ以降はくしゃみを回避したり、「チカラを逃がしながらくしゃみをする方法」を編み出したりする。
痛みの少ない身体の使いかたを覚えるわけです。これがまたなかなかたのしい。
切ったり、縫ったり、痛む身体にはちいさな衝撃がとても怖い。歩き方も、坐り方も、横になり方も、それなりのやりかたがあるのです。
廊下を歩いてみようと部屋の外に出たら、むこうから、パジャマの女性がうつむきがちにからだを緩めてポッタリポッタリやってくる。
うーむ。ここは病院なのだなあ、とシミジミ思いました。
そしてじぶんもはたからみるとたぶんああやってポッタリポッタリ歩いてるんだろうなあ。
あれは病人特有の歩き方です。
入院前、なんで病院の患者さんはみんなああやってポッタリポッタリ歩いているのだろう、と思っていましたが、自分が病人になってみてわかりました。あれは、痛む身体の歩き方なのです。
衝撃の少ない歩き方。
それがあのポッタリポッタリなのです。
ポッタリポッタリはせつなくなりがちです。
ポッタリポッタリ歩いていて覇気が出るわけないじゃないすか。
脱・ポッタリポッタリ。
わたしは無理矢理にでも背筋を伸ばしてナニゲな顔をして歩くことを心がけました。ザ・努力。白鳥は水面下で足をばたつかせている、とかなんとか。
おかげで退院する頃は、ゆっくりではありますが背筋を伸ばして、しゃんしゃんと歩けるようになりまして。
フフフ、やるじゃん自分。
退院した翌日、なにはともあれ海を見ようと山下公園に行きました。ところが健康な人たちの中に入ったわたしは、やっぱりまだすこしポッタリポッタリでした。
ポッタリポッタリのなかではしゃんしゃんでも、しゃんしゃんしたひとたちのなかではまだまだポッタリポッタリであった、と。
ま、当分しゃあないですね。
まったくだいそれたことをしたもんです。
退院後3カ月の今はもうまったくポッタリポッタリじゃないです。
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