OHTAKI'S MODERN CARTOON

アホウな入院患者の巻
その2・病気ということ編


しかし病気ってなんかやっぱりタダゴトじゃないです。

腹を切って2週間近く入院してきまして、シミジミと思いました。
病気っていうのは、身体の不調はともかくとして、なんというか、人としてのなにかを持てない状態なのではないかと思います。
わたしのわたしというパーソナルな情報を一気に削ぎおとされてただの「イキモノ」というあたりまで約分されていく、というのでしょうか。

病気になって入院する。

いろんな検査や手術の準備をしているうちに、看護婦さんに裸(むねだろうがおしりだろうが)を見られても平気になります。はじめはイヤンっていう気持ちがあるものの、あっというまに平気になります。

そんなこと言ってる場合じゃないからです。

腹の手術をすると、2日ほど動けません。その間点滴で栄養と水分をまかなっているので尿だけは出る。尿はカテーテルで引き出されベッドの横にある透明な袋の中に溜められていきます。丸見えです。あまりにもださくてガックリしますが、そんなことももうあっというまにどうだっていいことになってしまいます。気にはなるんだけど意識の遠くに行ってしまうの。

そんなこと言ってるバヤイじゃないからです。

手術の翌日は頭も身体もボーとして寝ていますがときどき気分が悪くなり吐きたくなる。でもまだ起きあがれない。看護婦さんを呼んでそれ用の皿をあてがってもらいます。なんも食べて無くても胆汁ならたんと出ます。
人前で吐く。
ガックリするかというとそんなことないです。そんなこと考えもしません。

本気で、そんなこと言ってるバヤイじゃないからです。

動けるようになって病室から出てフト見回すと、なにしろ朝から晩まで寝間着の人だらけです。女はスッピンで髪はボーボー。パジャマはよたってるし、なんとなくだらしない。

でもやっぱりほんとうにそんなこと言ってるバヤイじゃないのです。
実はわたしも吐いた胆汁で寝間着の襟元を汚してしまったとき「着替える?」と言われたのを断りました。
もう、吐いてへとへとで、面倒くせえの。ちっとくらい汚くてもいいの。

そんなこと言ってるバヤイじゃないのです。
みんな病気なのです。
 
 

手術から3日め、看護婦さんに身体を拭いて貰いました。そのタオルの暖かみに、なんだかかすかに頭の奥で「あっなんかヒトっぽい」と思いました。

点滴が外れた夜、洗いたての浴衣に着替えて夜中にヘッドフォンでフィリッパ・ジョルダーノを聞いていたら、猛烈にシミジミと「ああ、なんかいま、ヒトっぽーーい」と思いました。

退院前夜、病室で汗をかいた肌着を着替えていたら看護婦さんがノックと同時に入ってきて思わず「あっタンマタンマ」と言ったとき、わたしは、もうすでにヒトに戻っていたのだと思います。

そんなことも言える場合に戻ってきたのです。
 

tulipa@mamioh.com *MAMI OHTAKI*

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