OHTAKI'S MODERN CARTOON

ときどきおもいだすの巻

終わった時間は好きじゃないとはいえ、ときどき思い出すことがあります。

いまからもう15年近くもまえのこと、デザイン事務所で働いていたときに知り合った編集の女性がいました。
浮いたところのない、野暮いくらいにキッチリした、真面目ゆえのユーモアが微妙なひとでした。3才くらい年上だったと思います。

このひとが妙にわたしに気をかけてくれて、デザイン事務所を辞めてからも、ときどき電話をくれたりして、ゆるい繋がりを持っていたわけです。

わたしはあるとき唐突に彼女から恋の話を聞いたことがあります。

彼女には、恋人のような男性がいました。
ほかの女性と結婚している人なのだそうでした。

なんでろくすっぽ親しくもないわたしなんかにそんな大事な話をするんだろうとも思いましたが、一方で、親しくないくらいのほうが話せることだってあるからなと思って聞いていました。
わたしくらいの距離の人間が手頃だったのでしょう。

それとも、わたしたちは親しかったのでしょうか。わかりません。

2.3回、彼の話をききました。
細かい話ではないです。ささやかな、たまたま彼も登場するといったくらいの、それでも、しあわせな気配のする、世間話。
そんなところもつつましいというか、控えめなひとでした。

その年が暮れて、お正月がやってきて、しばらくして突然、彼女の死を知らせる電話がありました。

真面目で頑張りやの彼女は年末ギリギリまで徹夜で働いていて、お正月に実家で倒れてしまい、そのまま入院してまもなく亡くなったのだそうです。

訃報をきいて、彼女のアパートのポストにはたぶんわたしのだした年賀状が入っているんだろうなあ、なんてぼんやりと考えたりしました。
そして彼のことを思い出しました。
誰が彼にこのことを知らせるんだろう。
彼女は、いちばん自分が名残を惜しみたいであろう人に、もう自分が居ないことを伝えるすべがない。

もちろんわたしは彼の名前すらしりません。ニックネームも、なにも、聞いたことがありません。

彼はいつ彼女の死を知るのでしょうか。
休み明けに約束をしていたかもしれません。
待ち合わせ場所でいつまでも来ない彼女を待つのかもしれません。
すぐ彼女の死を知ることの出来る環境にいたとしても、彼になにができるのでしょうか。

なんだか二重にかなしいことだったのです。

わたしはときどき、彼女の色白の顔と、ジョークだかなんだかわからなかった冗談なんかを思い出します。
そして彼はもう彼女の死を知っただろうかなあ、と思ったりしているのです。

 

tulipa@mamioh.com *MAMI OHTAKI*

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