終わった時間は好きじゃないとはいえ、ときどき思い出すことがあります。
いまからもう15年近くもまえのこと、デザイン事務所で働いていたときに知り合った編集の女性がいました。
このひとが妙にわたしに気をかけてくれて、デザイン事務所を辞めてからも、ときどき電話をくれたりして、ゆるい繋がりを持っていたわけです。 わたしはあるとき唐突に彼女から恋の話を聞いたことがあります。 彼女には、恋人のような男性がいました。
なんでろくすっぽ親しくもないわたしなんかにそんな大事な話をするんだろうとも思いましたが、一方で、親しくないくらいのほうが話せることだってあるからなと思って聞いていました。
それとも、わたしたちは親しかったのでしょうか。わかりません。 2.3回、彼の話をききました。
その年が暮れて、お正月がやってきて、しばらくして突然、彼女の死を知らせる電話がありました。 真面目で頑張りやの彼女は年末ギリギリまで徹夜で働いていて、お正月に実家で倒れてしまい、そのまま入院してまもなく亡くなったのだそうです。 訃報をきいて、彼女のアパートのポストにはたぶんわたしのだした年賀状が入っているんだろうなあ、なんてぼんやりと考えたりしました。
もちろんわたしは彼の名前すらしりません。ニックネームも、なにも、聞いたことがありません。 彼はいつ彼女の死を知るのでしょうか。
なんだか二重にかなしいことだったのです。 わたしはときどき、彼女の色白の顔と、ジョークだかなんだかわからなかった冗談なんかを思い出します。
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